『ジプシー・キャラバン』 ジョニー・デップ/アントニオ・エル・ピパ/マハラジャ/ニコライ


本日の1本!管理人ソフトポケットのコメント

M softpocket

評価 ★★★★

ジプシーは、エジプシャン(エジプト人)由来の呼称で、インド由来のロマニを話す放浪の人々とは別流であるとも。なにしろ定住地を持たず放浪している人びとすべてをロマ、ジプシーと呼ぶ傾向があるので、いまやそのルーツを正確にたどるのはとても難しいことになっています。

ちなみに、イギリスにはアイルランド系のジプシー/ロマがたくさん住んでいますが、彼らもジプシーと呼ばれています。絶対にインドがルーツではありません。外見は白人のブリティッシュと全く変わりません。スペインのヒターノや、フランスやルーマニアなどのヨーロッパ各地で多く見かけるロマの人たちは、皮膚や髪の色が濃いインド系の顔立ちをしている人が多いです。

ジプシー・ロマの起源はインドのラジャスタンだといわれています。古代インドのサンスクリット語では、歌舞音曲をなりわいとする下層カースト民ドンバとかチャンダーラと呼び、現代インドではヒンディー語で「さすらいの音楽家のカースト」を、プンジャブ語では流浪の音楽家をそれぞれドムと呼び、これが転じてロム(ロマ)となったと考えられています。

この映画の中で、きらびやかに女装して踊るマハラジャのダンサーの家は、もともとは「大工のカースト」だったそうです。しかし両親が早くに亡くなり、弟妹を養っていくために手っ取り早く収入になるダンサーになったと語ります。ここで「自分はジプシーのカーストではなかった」とあえて言っていますね。彼にしてみれば自分のカーストはジプシーより上だったと一言言っておこうかといったところでしょうか。

さすらって歌や舞踊、音楽を提供しながら生きていく人々を、人は昔からさげすむ傾向がありました。日本にも「河原乞食」という言葉がありますね。歌舞伎役者だって、はじめは出雲阿国という女性がはじめたダンスで、風紀が乱れるっていうんでだんだん男歌舞伎になっていったんです。って横道にそれましたが、それでもその中で脈々と受け継がれていく芸能の才能というのが確実にあるんですね。

こぶとりじいさんの踊りはうけても、欲張り爺さんの踊りは、鬼をちっとも喜ばせなかったじゃないですか。^^持って生まれた才能なんですね。ジプシーやロマの人たちの血の中に脈うつ音楽や舞踊の才能が、日々の鍛錬の中でより強固なものに育っていくのでしょう。

『マハラジャ』の故郷ラジャスタンのたくさんの子供たち。彼らは素晴らしい歌や、パーカッション、楽器を披露してくれます。もちろん舞台じゃなく、ストリートで。その村のほぼ100%の子供たちが歌って演奏して踊れるのです。そしてその中で一番になれたら、自分も『マハラジャ』のように世界を見ることができる!昔はともかく、エンターテイナーを尊ぶ現代では、この子たちがインドの若者たちの誰よりも成功に近い位置にいるのかもしれませんね。

また、マケドニアの歌姫エスマも、自分の故旦那さんが、ガジョ(ロマからいうロマ以外の人々)だったと、なんとなくうっとりとした表情で語ります。このエスマさんは、自分の子供はなかったものの47人もの孤児を引き取って育てている肝っ玉母さんです。並みの人ではないと思いますが、ロマという自身の生い立ちを誇りに思いながらも、その悲惨な迫害の歴史ゆえに、『ガジョとの結婚』を晴れがましいこととして話しています。事実、彼女の歌手としての大成功、そしてガジョとの結婚は極めてまれなことで、当時のロマの人々を強く奮い立たせました。ロマの音楽は、彼女が育て上げたたくさんの子供たちに脈々と受け継がれていきます。

フィドルの弦を指でつまんで、器用にしゃがれた音を出す、しわしわのおじいちゃん『ニコライ』は、ルーマニアの『タラフ・ドゥ・ハイドゥークス』を世に広めました。ロマの音楽というと、ブラスバンドからなるこの系統の音楽を思い浮かべる方が多いかもしれません。

この映画にジョニー・デップがちょこっとインタビューに友情出演していますが、これはこのバンドがデップ出演の映画『耳に残るは君の歌声(The Man who cried)』のジプシー役で出たのがご縁なんでしょうね。ニコライおじいちゃんの息子さんは、この作品のほかに『Concert』にもジプシーのバイオリン奏者の役で出ています。ボリショイ・オーケストラにも負けない素晴らしい演奏です。

スペインのアンダルシア地方は、ジプシーがヨーロッパ大陸をさすらって、たどり着いた最後の土地です。アントニオ・エル・ピパは、シェリー酒のふるさと、アンダルシアのへレス・デラ・フロンテーラ出身のフラメンコダンサー(バイオーレ)。

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へレスのシェリー酒の醸造元。

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なぜかあのかたの写真が。

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ここでしか収穫できないシェリー酒のもとになるブドウの木。
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へレスの駅。アンダルシアはアラブの模様が至る所に。

アントニオの50歳になるおばさんも、このジプシーキャラバンに参加しています。彼女はアントニオと同じくらい有名な、貫禄十分のフラメンコ歌手(カンタオーラ)ですが、彼女の母親もすごかったんだといってますね。おそらくその親も、その親もみんなフラメンコミュージシャンだったに違いありません。フラメンコは、一家(ファミリア)で一座が形成されている場合も多く、長く迫害されてきたヒターノたちの唯一のよりどころがファミリアだということで、その血の結束は非常に固いです。例を挙げたくなりましたが、どんどん続いていきそうなのでこのくらいにしておきましょう。ヒターノとフラメンコの映画といえば、トニー・ガトリフの『Vengo』というのがありますが、これもまた別の機会にお話ししましょう。

映画『ジプシー・キャラバン』について

この映画は、2001年、アメリカで6週間に亘って行われた「ジプシー・キャラバン・ツアー」の模様と、その出演者の故郷や生活を紹介するドキュメンタリー映画です。インド、ルーマニア、マケドニア、スペインの4ヶ国から、5つのバンドが登場します。

はじめはなんとなくぎこちない雰囲気で始まったキャラバンツアーも、ルーツを同じくする者同士、次第に意気投合していきます。

フラメンコを真似して踊るマハラジャのメンバー。米国の公園の池に泳ぐ魚を当然のように釣り上げて(もちろん食べるため)ポリスに注意されたり。飛行機にも楽器持参で演奏しだしたり。まあ、映画ということもありいろいろ頑張ったんだとは思いますが、楽しませてくれます。

それよりなにより、彼らの演奏が素晴らしいこと!私の一押しはインドの『マハラジャ』そしてフラメンコの『アントニオ・エル・ピパ』。何度見ても、何度聞いても飽きませんよ。おすすめです!!

キャスト

ジョニー・デップ(友情出演)、
エスマ(マケドニア)
タラフ・ドゥ・ハイドゥークス(ルーマニア)
ファンファーラ・チョクルリーア(ルーマニア)
アントニオ・エル・ビバ・フラメンコ・アンサンブルズ(へレス・デラ・フロンテーラ、スペイン)
マハラジャ(ラジャスタン、インド)
監督: ジャスミン・デラル
リリース:2009年
時間: 111 分

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ツーリスト
耳に残るは君の歌声

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